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訴訟告知裏書人の再遡求権は,所持人から訴えを受けた日から6ヵ月で時効にかかる(手77条1項8号=70条3項)。
ところが,訴訟係属中に6ヵ月が経過しその後敗訴判決を受けた場合,裏書人の前者(他の裏書人,その保証人など)に対する再遡求権は時効消滅していることになる。
そこで手形法は,裏書人が所持人から訴えられた場合,裏書人の前者に対する再遡求権の消滅時効は,裏書人の前者に対して訴訟告知(民訴53条)をすることによって中断し(手86条1項),中断した時効は,裁判が確定したときから時効の進行を始める(同条2項)と規定している。
この規定の趣旨に照らせば約束手形の振出人(為替手形の引受人も同じ)に対する請求権について訴訟告知による時効中断は認められないと解される(通説,最判昭57.7.15民集36.6.1113)。
(c)時効中断の効力時効の中断は,その中断事由が生じた者に対してだけ効力が生じ,他の手形債務者の時効はこれによって中断されない(手77条1項8号=71条)。
このことを時効中断の効力の相対性という。
これは,手形上に各手形行為がそれぞれ独立して存在することにより(手形行為独立の原則により),各手形債務は独立のものであるから,時効もそれぞれ独立して進行するということにほかならない。
たとえば,手形所持人が振出人に対して時効中断の措置をとったが,その手形の裏書人に対しては何らの措置をとらなかったときは,手形所持人の振出人に対する権利だけに時効中断の効力が生じ,裏書人に対する遡求権にはその効果は及ばない。
なお,手形授受当事者間において,債権者がなした手形金請求の訴えの提起は,原因債権の時効も中断する(最判昭62.10.16民集41.7.1497)。
(d)時効の完成の効果手形の時効は各手形上の権利についての時効であるから,ある権利が時効完成により消滅しても,他の権利には影響がない。
ただし,主たる債務者である振出人に対する手形上の権利が時効によって消滅したときには,裏書人に対する遡求権(従たる権利)も同時に消滅すると解される(大判昭8.4.6民集12.551,大判昭12.8.16新聞181.11)。
(a)意義手形上の権利が,遡求権保全手続の欠訣により,または時効により消滅した場合にも,手形所持人は振出人(あるいは引受人)または裏書人に対して,その者が受けた利益の限度において償還を請求することができる(手85条)。
これは,手形上の権利の消滅を原因として手形法が特に認めた権利であり,利得償還請求権という。
たとえば,Aが売買代金の「支払に代えて」Bに約束手形を振り出したところ,Bがこの手形を時効にかけてしまった場合,Aは売買代金債務の支払を免れることになる。
しかし,このような結果は,手形の短い時効期間や遡求権の厳格な保全手続を考慮すると著しく不公平である。
そこで法は,手形債務者が実質関係において利得を得ていることを所持人が証明すれば,その利得を償還させることとして,手形所持人の救済を図っているのである。
(b)法的性質利得償還請求権は,衡平の観念に基づき手形の厳格性を緩和するために,法が認めた特殊の権利であるとするのが通説・判例(最判昭34.6.9民集13.6.664)であるが,最近では,この権利は手形上の権利の消滅後に発生する権利であるから手形上の権利ではないが,実質的には手形上の権利の残存物または変形物であるとする説が主張されている。
この説によれば,利得償還請求権は,手形上の権利が消滅した後の手形(証券)に結合した権利であって,手形上の権利とほぼ同様に扱われるものとされる。
権利者は,手形上の権利が消滅した当時における正当な所持人である(手85条)。
したがって,最後の被裏書人はもちろん,遡求義務を履行して手形を受け戻した所持人も含まれる。
手形上の権利者であるかぎり権利取得の方法は問わないから,期限後裏書による取得者,善意取得者のほか,裏書の連続が欠けている手形の所持人も,実質的権利を証明すれば権利者になれる。
なお,手形上の権利が消滅した当時,手形を盗まれたりして手形を所持していなくても,依然として実質的に手形上の権利者である場合は,利得償還請求権を取得することができる(小切手につき,前掲最判昭34.6.9)。
義務者は,振出人(あるいは引受人)または裏書人であるが(手85条),裏書人は手形を取得する際に対価を支払うことが普通であるから,裏書人が利得償還義務を負うことはまれである。
(a)手形上の権利の消滅手形上の権利が,手続の欠訣(遡求権保全手続の僻怠)または時効により消滅したことが必要である。
時効消滅により利得の償還を請求するためには,所持人は時効完成の事実を証明すれば足り,債務者が時効を援用したか否かは問題ではない。
さらに,利得償還請求権が発生するためには,手形上の権利だけではなく,所持人はすべての権利(民法上の救済方法もない)を失っていることが必要であろうか。
従来の通説・判例(大判昭3.1.9民集7.1)はこれを肯定していた。
利得償還制度は,手形所持人にとって最後の救済方法であるという考えに基づいていたのである。
しかし,近時はすべての権利を失っていることを要しないとする見解が有力である。
利得償還制度が最後の救済方法であると解する法文上の根拠はなく,所持人が手形上の権利を失ったことでいずれかの債務者に利得が生ずるか否かの問題であると解されている。
(b)手形債務者の利得の発生利得償還請求権が発生するためには,手形債務者に利得が生じていることが必要である。
ここにいう利得とは,手形債務者が手続の欠鉄または時効消滅により,単に手形債務を免れたことをいうのではなく,その原因関係において現実に財産上の利益(対価)を受けたことを意味する。
利益を受けた場合とは,原因関係上,財産が現実に増加した場合(手形を振り出して金品を受領する場合など)だけでなく,消極的に原因債務を免れた場合(原因債務の「支払に代えて」手形を振り出した場合など)も含むと解されている(通説・判例)。
他方,振出人が原因債務の「支払のために」手形を振り出した場合,手形上の権利が時効消滅しても,原因債務がなお存続しているかぎり利得があるとはいえない(最判昭36.12.22民集15.12.3066)。
なお,振出人が「支払のために」手形を振り出したが,この手形が時効にかかり,しかも受取人の振出人に対する原因債権もまた時効によって消滅しても,振出人に利得があるといえない。
それは,原因債権の時効消滅が手形債権の消滅後である(最判昭38.5.21民集17.4.560)と,その前である(最判昭40.4.13判時413.76)とを問わない。
この場合に,原因債務は時効の完成という別の事由によって消滅したものであり,債務者に利益が生じても,それはここにいう利得が成立したことにはならないからである。
利得償還請求権は他人に譲渡することができ,その方法は指名債権譲渡の方法によるべきものとされていた(大判大4.10.13民録21.1679)。
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